クイーンズ・ギャンビット /イオニアカードでチェックメイト
2020年に公開されたNetflixリミテッドシリーズの最高傑作『クイーンズ・ギャンビット』。
天才チェスプレーヤーのベス・ハーモンがチェスの腕だけで男性だらけのチェス界でトッププレイヤーに上り詰めていく。その勝ちっぷりが痛快。
しかし、精神的にもろく、絶対的強者じゃないところも多くの人から共感を得たようだ。
チェスのルールを全く知らなくても世界観に引き込まれていくのは、ベス・ハーモンを演じるアニャ・テイラー=ジョイの存在感、それに加えて「ハリウッドで最高の脚本家のひとり」と評されるスコット・フランクの脚本によるものだろう。
欧米でチェス盤の購入者が数倍に増えたというのも納得。
ドラマを見ていると、チェスの世界ではいかに精神力を消耗するかがよくわかる。
精神と精神のぶつかり合いなのだ。
大勢が対戦する予選では部屋にホコリが舞う。周りではタバコを吸う人もいる。
ゲーム中というのに、ベスはイラつく。
「だめよ、だめ。イライラしては駄目。自分の力で勝たなくちゃ……」
さあ、こんな時はイオニアカードですよね。ベスの時代にもちろんないけど、ぜひ使ってもらいましょう。
「ちょっと失礼」。
ベスはそう言って、イオニアカードを首にかけ、対戦を続ける。
驚くべき集中力で試合を優位に運ぶベス。
やがて、相手は負けを認め自分のキングを倒す音が部屋に響く。
「私の勝ちよね?」
うなだれる相手。
カードの紐を持ち、くるくる回転させながら上機嫌で部屋を出ていくベス。
それを悔しい思いで見つめながら「俺もベス・ハーモンのように強くなるぞ」と敗者は誓う。
「……まず、イオニアカードを手に入れないとな」。男はそう思うのであった。