花粉はつらいよ、イオニアがあればなぁ
「花粉はつらいよ、イオニアがあればなぁ」
もし令和の時代に「男はつらいよ」が蘇ったら...
寅次郎は涙をぐっとこらえて言った(だろう)
「花粉には油断するんじゃあ、ねえぞ」
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正月と盆になると日本人の多くが観る映画があった。
山田洋次監督の『男はつらいよ』だ。
俳優の渥美清扮する車寅次郎が旅先で美女に恋をして、東京葛飾柴又の実家のだんご屋に戻り、
家族親戚近所の人たちを巻き込んでドタバタ悲喜劇を巻き起こした末に大失恋。傷心の寅さんはまた旅に出る…
という内容だ。偉大なるマンネリズムと言われもしたが、1969年に第1作が公開され、以後50作品が公開された国民的人気シリーズだ。
寅さんの行動は基本的にはソロ。
一人で全国の縁日を回って露天を開き、啖呵売(たんかばい)で商いをする。この啖呵売がかっこいい。
フリースタイルのラップのような見事な口上(こうじょう)に、映画を観る人は皆ほれぼれするだろう。ここまではいい。
問題は寅さんが実家に帰った後なのだ。
寅さんの実家のだんご屋は店舗と住居が共にあるスタイル。店舗奥の部屋が居間になっていて、家族が一同に集まって食事をする。
おいちゃん、おばちゃん、妹のさくら、さくらの夫の博、さくらの息子の満男。寅さんが戻るとこの空間に一人増える。
さらに、寅さんの恋した女性、その女性を見に来た近所の町工場の社長。6畳の居間に8名……。密すぎる。
そこで、寅さんは商売同様の話術で皆を惹きつけ、笑わせる。
もし、令和の時代に「男はつらいよ」が蘇ったら。きっと若い世代の満男は居間での密対策にイオニアを手に入れるだろう。
「満男、あんたいったいこれなに?」
「母さん、イオニアカードだよ。知らないの?」
「いおにあカード?」
「カード型空気清浄器。家族分、買っておいたから。首にぶら下げておいてよ」
「へえ、なんかいいわね」
「どれどれ」と、父の博たちが手を伸ばしたところに、寅さんが半年ぶりの帰省。
慌てる満男たち。当然、寅さんの分は用意していない……。
やがて、寅さんはみんなが首にあけているイオニアカードを見つける。
自分の分がないと知った寅さんはショックを受け(寅さんは傷つきやすいんです)、大喧嘩の後に家を飛び出してしまう。
兄を追う、さくら。
駅で寅さんに追いついたさくらは
「お兄ちゃん、これ」とイオニアカードを差し出す。
「空気がきれいになるんだって」
イオニアカードを取りそうになるが、ぐっとこらえる寅さん。
「妹であっても女の涙は見たくねえからよ」
寅さんは、イオニアカードをさくらに返し、やさしい言葉を妹に投げかけ、電車に乗ってまた旅に出るのであった。
(さくら、花粉には油断するんじゃあ、ねえぞ)
もちろん、「男はつらいよ」の時代にイオニアカードは存在しない。しかし、もしあったとしたら、大家族には力強い味方だろう。
『男はつらいよ』は時代を越えて楽しめる名作だ。ぜひ、ひとりではなく家族そろって観てほしい。
その時は、傍らにイオニアカードをお忘れなく。