#34
列車の旅には きれいな空気を連れてって

5月といえば、ゴールデンウィークを楽しみにしていたのだが。
妻も私も仕事がどうも調整がきかず、連休はほぼ仕事で過ぎ去っていった。
しかも、今年の梅雨入りは早い。
なんだかモヤモヤとストレスが溜まっているのをお互いに感じ、
やっぱりちょっとはリフレッシュしたいねと、週末に1泊の小旅行に出ることにした。
新幹線とまではいわず、特急列車の旅である。
小さなボストンバッグに、最低限の荷物を詰めて、向かうは馴染みの温泉宿。
列車に乗り込むと、意外にも混んでいた。
車内では、さっそく駅弁を広げる客に、マスクを外して忙しそうにキーボードを叩くスーツ姿の客もある。
少し警戒心が働くこの空間。
ちらっと妻のほうを見ると、同じ思いだったか、眉を少し上げて目配せをしてくる。
私はマスクの鼻のワイヤーを指でキュッとつまみ直しながら、
「イオニアバンドつけてきてよかったね」と囁く。
発車してしばらく揺られ、小用を済ますために座席を立つ。
戻ってくると、妻の席の周りだけが澄んだ空気に包まれた
特別席のように見えたのが不思議である。